インタビュー

国立がん研究センター中央病院、遺伝子診療部門の取り組み

国立がん研究センター中央病院、遺伝子診療部門の取り組み
吉田 輝彦 先生

国立研究開発法人国立がん研究センター研究所 遺伝医学研究分野 分野長 /同研究支援センター ...

吉田 輝彦 先生

この記事の最終更新は2016年04月25日です。

国立研究開発法人国立がん研究センターでは、網羅的な遺伝子診断に基づく診療を本格的に導入するため、中央病院に「遺伝子診療部門」を2015年11月に新たに開設しました。遺伝子診療部門の役割や位置づけ、これからどのような取り組みが行われるのかについて、部門長の吉田輝彦先生にお話をうかがいました。

ゲノム診療全体の流れとして、大腸がんであれば大腸外科・消化管内科・内視鏡科、乳腺であれば乳腺外科や乳腺・腫瘍内科といった専門の診療科が診断・治療に当たることは従来と変わりません。

国立がん研究センターの組織では、「診療科」はそれぞれの臓器がんの診断・治療をするところですが、これに対して遺伝子診療部門は「科」ではなくて「部門」です。ひとつの診療科だけではなく診療科横断的にサポートをする共通部門という位置づけになります。

患者さんにとっての遺伝子診療部門の役割は、大きく分けて2つあります。がんの遺伝が心配な方については、血液(末梢血)を採取して遺伝性腫瘍のリスクについて調べます。もうひとつは、抗がん剤の治療が必要な方で、今までの標準治療では効かなくなって再発をしている、あるいは副作用が強いという方の場合です。これについては採取されたがん細胞の遺伝子の変異を調べ、それに応じた治療法の選択をします。

 

我々のところで検査だけを請け負って結果をお知らせし、その後は他の施設で治療を受けるということは基本的にありません。事情により転院は必ずしも不可ではありませんが、国立がん研究センターで治療を受けることを前提に研究に参加していただき、遺伝子変異が陽性であれば薬の臨床試験に入るというのが主な流れになっています。

承認済みの抗がん剤から遺伝子の変異に有効な薬剤を選択して治療ができる場合もありますが、実はそれぞれの患者さんの遺伝子変異に対応する有効な薬がまだ存在しない、国内では承認されていないということも多々あります。したがってまずエビデンス(医学的根拠)が確立している標準的な治療を受けた上で、ということが前提になりますが、臨床試験や企業治験に参加していただくことも多くなります。

ゲノム全体を調べると、第一の目的としたがんの治療や予防に関する情報以外の、遺伝に関する体質がわかってしまうことがあるからです。

たとえばある男性の胃がん組織を調べた結果、遺伝性乳がん卵巣がんの遺伝子変異を持っていることがわかった場合、本人は直接発症しなくても、その方に娘さんが居たら、あるいは将来生まれたらどうするかという問題があります。そういった偶発的所見を伝えるべきか、どのような遺伝病ならば伝えるべきなのかということは世界的にも議論されています。

患者さんの中には知りたくない、聞きたくないという方も当然いらっしゃるので、それはあらかじめ確認しておくようにしています。

このような議論の根底には、やはり差別という問題があります。アメリカにあるような、遺伝情報に基づく差別を禁止する法律を日本にも作るべきかどうかといったことも検討しなければなりません。

目の前の患者さんご本人の治療や予防のために集められたゲノム情報を、未来の患者さんのための新しい治療法や予防法を開発するためにゲノム情報の、適切な手続きを踏んで二次利用できるようにする仕組みも必要です。様々な角度から議論がされています。

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  • 国立研究開発法人国立がん研究センター研究所 遺伝医学研究分野 分野長 /同研究支援センター センター長/基盤研究支援施設 施設長

    吉田 輝彦 先生

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